蒼井そらの良さもそういえばわからない

蒼井っていう苗字が合わないのかも、
ffです。




雨の日に電車に乗るとよく聞くアナウンス。


『―――本日、傘の忘れ物が大変多くなっております。お気をつけ下さい―――』


聞く度に思う。


いつも気をつけとるわ!
こちとら何回、何十回と傘忘れてるっつーの。
いちいち注意されなくてもわかっとるわい!


もういい年こいた大人なんだからそんな初歩的な失敗しないんだぜ。
あの時の尊い犠牲を忘れちゃいけないんだ。


それにしても朝聞いても『大変多くなっております』なんだよな。
何なのその後ろ向きな断定は。


だいたい傘忘れるなんて愚かにも程がある。
そんな奴がいるから変なアナウンスが流れるんだ。






そんなことを思い始めていた先週。








…………傘忘れた。




雨止んでたからいいけど、
帰りの電車で『――本日大変傘の忘れ物――』のアナウンスを聞いたときはヘコんだ。


だって電車に乗ってるときに同僚から電話掛かって来て、
もしかたら面倒なことになりそうな件を一緒にやっていた同僚だったので、
出たい。でも車内だし…。いやでもすぐ折り返ししないと…。


という葛藤の後、
電話にはとりあえず出ずに、
ただ電車で次の駅着いたら目的地ではないけどすぐ降りて折り返した。


…傘を忘れたまま。


仕方なかろうもん。
焦ってたんだもん。
そうやって出た電話の内容は、
『何ともなかったよーありがとー』
ってやつだったし。
だいたいアナウンス聞く冷静さがあれば傘なんて忘れないっつーの。
全く人を馬鹿にしやがって。




いや、馬鹿なんですけどね。




これで一つ教訓になった。
傘はいつ何時も気にしてないといけない。
電車で寝ても(何故寝てるのかはともかく)忘れてはいけないのだ。


それからというもの、
俺と傘は運命の恋人のように、
ダブルアーツのように、
シータとパズーのようにつかず離れずだった。


そんな二人を祝福するかのように雨は降り続けた。




ある日、知り合いと飲みがありその日もやはり雨だった。
帰りの電車、襲う眠気、果てしない怠惰感。
傘を手放しかねない状況だ。


しかし、もう同じ過ちは犯さない。
失って初めて気付いたんだ。
アイツがどれだけ必要だったってこと。
アイツはもう返ってはこないけど。
それでも同じ過ちはしないと誓うよ。




実にいい感じのポップスが作れそうな雰囲気だった。




地元の駅に到着。
例のアナウンスが聞こえる。
大丈夫、冷静だ。
俺はもう昔の俺じゃない。
失うものの大切さが本当の意味でわかった俺だから。
いないアイツへ向けて微笑みかける。




しかし、腹が減ったな。
飲みばかりであんまり食べてない。
家に用意もないし、こんなときは松屋だ。
もはや定番となった飲み→松屋のA級コンボ。
便利な店だ。




いつもの豚めしを食べ、腹を満たして帰宅。
実に気持ちのいい帰宅。
余計なことは忘れてしまいそうだ。




余計な…………もの…………






ん?








(゜Д゜)!!!!!







頭の中では例のアナウンスが流れていた。