うんともすんとものすんって何?

ある日のこと。






ウチの事務所もセキュリティが厳しくなった。
入口のドアに入退室管理のシステムが入り、
カードリーダーに社員証をピピッとやらないと入れなくなった。




これが不便極まりない。




本社と違ってビル丸ごとウチの会社って訳ではないので、
入退室管理がついたのは各フロア間の入口。




つまり、


各フロア間の移動はピピッ必須になったのだ。


それだけではない。


何とトイレに行くもピピッ。
自販機行くにもピピッ。
極めつけはインターホンに出るのにもピピッ…。


何だかピピピピ言い過ぎて訳わかんなくなってきた。
なんか韓流スターにそんなんいたな。ピ?ペ?レイン?




そんなわけで僕はもうピピピピ中毒です。
パーマンがピーマンに見えます。
ビルがピルに見えます。
オッパッピーがオッパッピーに見えます。合ってるな。
マンビがマンピーに見えます。あれマンビってそもそも何だ??




そんなある日




いまだ慣れないピピッを通過しようとする。
恐る恐るカードリーダーに社員証を掲げる。


ピピッ


来た。この音だ。
この音が俺の中枢に吸い込まれる度に目眩がする。
これではいけない。しっかりと気を持たなければ。
するとドアからカチャカチャと音がする。
施錠を解除しているのだ。
よし、勝った!
通過を確信して勢いよくドアを引く。




ーーーー開かない。




何故だ?
頭に無数の疑問符が浮かぶ。段取りは完璧にこなした筈だ。あの忌々しいピピッも終えたというのに。


再び、引くーー。




結果は、変わらない。ドアは固く閉ざされたままだ。
訳がわからない。ノブを回し何度もドアを引く。
しかし現実は数秒前の過去を忠実に再現するだけだ。
後ろに人影を確認する。
気をつけろ。いまこの空間は未知に溢れている。
ドアが開かないなんてことあっていいものか。いや、ない。
しかしこの空間を支配しているのは混沌であり、矛盾だ。
どうしたらいい?




…おい、そのドアは危険だ。俺は何度も引いたがびくともしなかった。
俺にはわかる。このドアはーーーーーー危険だ。
何度も引いたがダメだった。何度も何度も引いたが、引いたが………




あれ?










あ、これ引くんじゃなくて押すんですねー。