誰もが忘れていた8章

ソロモノ『ひぇーーーーーっ!!』




あ、どうも。
ご存知俺は未来の大魔術師ソロモノだ。


え、何をお前はそんな声を出してるんだって?


それは…


あ、ちょっと待って…


『サンダーコール!』


バリバリ!


『…ふぅ』


俺の呼んだ雷は思惑通り崖に命中。
後を追いかけてきたグリズリーどもは崩れた斜面を前に勢いが止まる。
奴らは異常に発達した爪が災いして足を取られてしまうのだ。
さすが俺。さすが天才。
さっきは謙遜して未来なんて言ったがもう大魔術師に限りなく近いな。


え、逃げてるだけじゃなくて倒せばいいって?
いやーわかってない。
殺さず倒す。これぞ俺のポリシー。
むやみにモンスターをハントしたら生態系が崩れるでしょうが!
カプコンはわかってるのかな、そのへん。
けっして一人きりだから魔物の群れにビビったわけじゃないよ?


え、何でこんな状況になったかって?




8章 離別



ソロモノ『ひぇーーーーーっ!』


カイーン「うるさい!戦えないのだったらせめて黙れ!」
アベェル『いっとくけどお前もけっこううるさい!』
カイーン「そう言ってる貴様もうるさいですー!」


…そう、このやり取りでわかるように
俺たちはアリアさんの毒を治すため、王家の泉へ向かい、
最深部で今から泉を汲もうという時に守護聖獣ケツアルコアトルに襲われていたのだった。


え、お前は逃げ回ってたのかって?
ち、違う違う。アレだよ、アレ。
『ひぇーーーーーャド!』って言おうとしてたんだよ。敵の死角からヒャド、いやヒャダイン狙ってたの!


まぁともかく魔界の障気にあてられたのか魔獣と化した聖獣を倒した俺(と仲間たち)
意気揚々と城に戻り絶対安静中のアリアさんに癒やしの水を飲ませたんだ。




だけど…


痛々しく紫に変色した顔こそ血の通った赤に戻ったものの
調子まで回復とはいかずにまだ寝込んでしまっていた。
アリアさんは『足引っ張ってごめんなさい…いっそ死んだほうがいいですね』なんてネガティブな発言もあった程だった。
いつもこんなこと言ってる人らしいけど、ちょっとシャレになってなかったっすf^_^;


そんなことをしてる内にアベェルとカイーンは城を追い出されちまったんだ。




なぜって?


それが笑わせる理由なんだよキャサリン
『魔物は勇者であるお前らを追ってこの国にやってきた。よって追放!』
笑っちゃうだろ、エリザベス?
何かを悪者にしないと自己を認められないなんて幼稚にも程があるぜ。


王家以外立ち入り禁止の場所で守護聖獣を倒しちゃったのも問題だったけどね。
(むしろこっちの方が問題じゃね?)


まぁそんな訳であの二人は追い出されちまった。
アリアさんだけは病人なので引き続き処置をすることになった。




ん、何でお前まで外にいるかって?


えーと、それはアレアレ。
け、見識を広めたかったの!狭い世界に閉じこまってたらいけないんだ。


まあ、前回ひっそり勘当されてたってのも理由だけどね。
(むしろこっちの方が以下略)




それなら今は3人パーティーなのかと言われたらそれはINAXだ。
まず、カイーンに関しては二人で城を追い出されたときに別れちまったらしい。
あの二人は仲悪いからね。二人っきりなんてリームーってものだ。


と言うわけで俺はアベェルについていったんだ。
まぁ一人でもいいんだけどさ。アベェルが何か寂しそうだったからね。ついていってあげたのさ。魔術師欲しいっぽかったし。
あと、一応主人公だし。
(むしろこっ以下略)




そこで俺らが向かったのは武道都市ガーランド。
そこで開かれる武道大会から仲間を探す予定…




…だった。




ガーランドは違う大陸にあるから船に乗ったんだけど、俺たちは忘れていた。
バラにはトゲ、牛めしに味噌汁、高橋ジョージには三船美佳、ライアンにはホイミンがそれぞれついてくるように、
海には化け物がついてくるんだってことを。
何でもないようなことが幸せだったと思うぜ。




その化け物、クラーケソは甲板まで侵入してきた所を俺(あとアベェル)で退治した。
退治したはいいんだけど、トドメをさしたアベェルは海に投げ出され、
俺は舵のきかなくなった船に揺られてガーランド近くの海岸に不時着したのだ。


まぁ俗にいうFF6のどっかの川でのオルトロス戦後みたいな状態になったわけ。




ガルル…




俺はとりあえずガーランドを目指した訳だけど、何せ一人ぼっちだ。
街の周りに居座るモンスターたちに邪魔されてなかなか近づけないってワケ。
いや、その気になればすぐなんだけどさ。不殺だからね、拙者は。なかなか難しいでござるよ薫殿。




ガルル…





またみんなが合流するころには仲間が増えて新しい技覚えてたりするんだろーなぁ。



ガルル…




なんだよさっきからうるさいな!


って、アレ…?




グリズリーが一匹、グリズリーが二匹、グリズリーが三匹、グリズリーが四ひ、ひ…


『ひぇーーーーーっ!』


そう、気がつくと俺はグリズリーの群れに囲まれていたのだった。
羊ならともかくグリズリーを数えても眠くならないよ…。
むしろ目が冴えた。


えーーーーーー、っと




ガルル…




いや、ちょっと待った。待ってね。ま、マジでちょっと待ってよ!いきなり襲いかかるなんてナシだぜ!?




そんな俺の願いとは裏腹に奴らはさっそくこっちに飛びかかってきた!




もう、ダメだ。
ソロモノ享年15歳。童貞でした。




…………。




…………………?




あれ?


こない。あんなに殺気だっていた魔物どもの気配がたんとない。
思わずつぶっていた目を恐る恐る開ける…。


あり?


なんと魔物どもは一匹残らず駆逐されていた。
そうか、俺が火事場のクソ力で放ったマヒャドが炸裂したのか。




あれ、そもそもマヒャドなんてこのゲームにあったっけ?
てかマヒャドって何?




『大丈夫か』




そんなことを考えていたらふと声がした。
低くしゃがれた声。
それがずいぶん上の方から聞こえてくるから最初は空耳かと思ったんだ。


でもすぐに気付く。


その声の主が俺のすぐ目の前にいること。
そして同じ人とは思えないほどの巨体であること。
さらに彼が俺を助けてくれたこと。
その後ろ姿は背中というよりは筋肉の塊と言った方がしっくりくる。
複雑に隆起したそれはまるで何かを形づくっていた。
例えるならそれはーーーーーーーーーー鬼の形相。




「あ、ありがとう。あの、名前は?」




『我の名前か?我はオゥガという』




「惜しい!」




次回「あれまた主人公出てこなかった」へ続くとか続かないとか。